「授業アンケート」に関する教員の意識調査
近年,ほとんどの大学において「学生による授業評価」を実施するようになっている。福島大 学でも,「学生による授業評価」を「教育改善のための学生アンケート」と題して2001年から実施 している。しかし,その活用方法については多くの議論をしながらも模索の段階にある。そこで福 島大学の全学委員会であるFDプロジェクトでは,授業アンケートのよりよい活用を進めるため,
2010年1〜2月に「『教育改善のための学生アンケート』に関するおたずね」というアンケートを 全教員に対して実施した。本稿は,そのアンケート結果について分析したものである。アンケート の分析から,回答者の多くは授業アンケートの結果を読み,個々人で授業改善に生かしていること がわかった。その一方で,集団(グループ)としての授業アンケートの利活用はあまり行われてお らず,組織的な授業改善の取り組みには十分生かし切れていないことが明らかとなった。また,有 効な利活用を望む声が多い一方で,さまざまな改善意見が出された。今後FDプロジェクトなどで 継続的に検討して,福島大学の授業改善に生かしていくことが必要と思われる。
〔キーワード〕授業アンケート 授業改善 教員の意識 FD 大学教育
板 橋 孝 幸*
はじめに
近年,大学において「学生による授業評価」が広く 行われるようになっている。文部科学省の調査では,
2004年度段階で,部局などの実施範囲はともかく,ほ とんどの大学で導入していることが明らかとなってい る1。福島大学でも,「学生による授業評価」を「教育 改善のための学生アンケート」と題して2001年から実 施している(以下,授業アンケートと略称)。10年あ まり取り組んできて,その間にフォーマットや回収方 法の改善,学期途中における中間アンケートの実施な ど,さまざまな改善を行ってきた。さらに,経年変化 の分析,教員・職員・学生の三者による懇談なども実 施し,授業アンケートの理解を深めてきた。しかし,
多くの議論や取り組みをしながらもいまだ課題は多い といえる。
授業アンケートはほとんどの大学で行われるように なってきたこともあり,近年の議論は実施することよ りも活用方法に向かっている。文部科学省でも,「学 生による授業評価の結果を授業改善に反映させる組織 的な取り組み」について調査し,各大学の「組織的な 取り組みの例」をホームページで紹介している2。そ うした状況を踏まえ,拙稿において「『授業アンケート』
の活用における現状と課題」と題し,全国的な授業ア ンケートの活用動向,福島大学における活用の状況と 課題を学生の授業外学習時間調査に焦点をあてて分析 を行った3。そこで本稿では,より詳細な活用方法の 実態調査も含め,授業アンケートに対する教員の意識 について分析し,福島大学における授業改善の方法を 検討する。
1.授業アンケートに関する教員の意識 調査の実施方法
授業アンケートの活用を進め,福島大学の教育をよ りよくしていくためには,授業アンケートに対する教 員の認識と受けとめ方を知る必要がある。福島大学で の授業アンケート活用の現状をつかむため,2010年1
〜2月にFDプロジェクトでは,後掲の<資料1>に ある「『教育改善のための学生アンケート』に関する おたずね」(以下,教員の意識調査と略称)というア ンケートを行った4。これは,授業アンケートについ て教員にその活用状況をたずねるために実施したもの である。背景には,「各教員がこの間の実施結果につ いてどのように考えておられ,授業改善にどのように 活用されているのかについては十分な把握ができてい ませんでした」と調査用紙の前書きにもあるように,
さまざまな授業アンケートの改良をしてきたが,各教 員の活用方法については十分把握できていなかったこ とがある。この調査では,授業アンケートの利活用に 加えて,「現行アンケートに関する意見・感想」も項 目として設定した。そのため,教員の授業アンケート に対する考えを把握することにもつながった。
本調査では,<資料1>にある質問紙を福島大学全 教員に配布して実施した。回収率は,<表1>にあ るように人間発達文化学類が25.0%,行政政策学類が 24.5%,経済経営学類が30.4%,共生システム理工学 類が26.4%で,全体では26.4%だった。こうした回収 率から,比較的授業アンケートに関心のある方が回答 されている可能性が高いことも考えられる。回答者が 全教員の約 のため,本調査が福島大学教員の全体的
*:福島大学総合教育研究センターFD部門
傾向とは必ずしもいえないかもしれない。この点は,
注意する必要がある。しかし,これにより授業アンケー トに対する福島大学教員の考えをある程度見ていくこ とは可能と思われる。以下,調査結果から読み取れる ことをまとめてみたい。
2.授業アンケートに関する利活用の度 合いと活用方法
⑴ 授業アンケートの利活用度合い
この調査では,最初の項目で「個人としての利活用 の度合い」について,「ア 各アンケート結果を詳細 に検討する」「イ ひと通り目を通している」「ウ ほ とんど見ていない」「エ その他」の4つの選択肢を用 意してたずねている。学類による差は多少あるが,全 体として<表2>のように,「ア 各アンケートを詳 細に検討している」が18.8%,「イ ひと通り目を通 している」が65.6%で,84.4%の教員がアンケートの 結果を見ていることがわかる。アンケート結果が返却 されると,利活用の程度はともあれ,目を通すことは しているようである。
⑵ 個人としての利活用の具体的な方法
個人としての具体的な利活用方法は,自由記述式で 調査した。大きく分けると,次の5つがあげられる。
第1は,次年度の授業に活かすため。これは,最も 多い利活用方法で,「学生の指摘を次年度の授業計画 に取り入れる」,「次年度の重点改善目標に入れる」,「そ
の後の授業運営の参考にする」といった意見であった。
次年度の授業をつくる際に,前年度のアンケートで指 摘されたことを改善するために活用する方法である。
第2点は,前年度の授業アンケートで記述されてい たことを踏まえ,改善した内容・方法が当該年度の評 価にどう反映されているか確認するため。これは,「毎 年,授業の内容・方法について変更を加えているので それが評価にどのように反映しているのかチェックし ている」など,授業者が改善した結果得られると考え た予想と学生側のとらえ方のギャップを確認すること でもある。
第3は,授業について学生の目からの意見を把握す るため。「学生が授業に対してどのようにとらえ,ど のように学習しているのかを見る」という学生の状態 を知ることに力点を置いている。やや第1点目とは異 なると考えて分類した。
第4点は,授業の理解度把握のため。「講義内容の レベル設定,宿題・課題の量の設定に役立てている」,
「『授業時間以外での学習』の程度が低い傾向にあるの で,その経年変化を見ている。→『レポート課題の増 加』などの対応に反映させている」,「教科書の選定に もアンケート結果を反映させている」,など,講義内 容の難易度設定,宿題・課題の量の増減,教材の選択 に反映させているとの回答があった。レポートやテス トなどの課題だけでは把握できないことをつかむため に,授業アンケートを利用する方法もあろう。
第5は,授業環境に対する学生の意見を把握するた め。「全体の雰囲気をつかむ」,「授業の進め方やコミュ ニケーションの取り方」,「冷暖房への注意」といった 回答があった。授業環境とは,講義室の設備などのハー ド面と授業の雰囲気などのソフト面の両方を含んでい る。
全体的には,技術的な改善に役立っているという回 答が最も多かった。たとえば,「黒板の文字がみにく いというクレームがあったのでパワーポントに移行し た」,「パワーポントの字が小さいとの意見やプリント が欲しいとの意見にこたえて,印刷した資料を配布す るようにした」などである。字の大きさ,話す速度,
パワーポイントの活用,資料の作り方,講義の仕方な どのほか,講義内容のレベル設定,宿題・課題の量の 設定,教科書の選定にもアンケートの結果を反映させ て改善を試みているというものである。宿題・課題の 量の設定については,経年変化を見て増減を検討して いるとの回答もあり,学期ごとのデータを過去にさか のぼって自分なりに分析している教員もいるようであ る。同種のコメントが複数の学生から記入されている 場合は,改善を強化すべきと教員は認識しやすく,当 該授業における共通傾向の把握につとめていることも 回答から読み取れる。
人間
発達 行政
政策 経済
経営 共生
理工 全体
対象 者数 84 回収 枚数 21 回収
率 25.0%
49 12 24.5%
56 17 30.4%
53 14 26.4%
242 64 26.4%
<表1>『「教育改善のための学生アンケート」に 関するおたずね』回収率一覧
<表2>個人としての授業アンケートの利活用 度合い
ア イ ウ エ 無回答 計
全体計 12 18.8%
42 65.5%
8 12.5%
1 1.6%
1 1.6%
64 100.0%
人間 発達
5 23.8%
13 61.9%
2 9.5%
1 4.8%
0 0.0%
21 100.0%
行政 政策
0 0.0%
10 83.3%
2 16.7%
0 0.0%
0 0.0%
12 100.0%
経済 経営
3 17.6%
12 70.6%
1 5.9%
0 0.0%
1 5.9%
17 100.0%
共生 理工
4 28.6%
7 50.0%
3 21.4%
0 0.0%
0 0.0%
14 100.0%
(上段は回答者数,下段はその割合)
3.集団(グループ)としての授業アン ケートの利活用
集団としての利活用については,<表3>にある ように「利活用したことがある」との回答は3.2%で,
あまり進んでいないことがわかる。「ある」との回答 では,オムニバスの担当者間でお互いに読んだり,意 見交換を行ったりして活用をはかっているようであ る。<表4>にある福島大学の授業アンケートの方針 により,「FDプロジェクトをはじめ,いかなる組織 でもそのデータを扱わない」ことになっているため,
担当者の了解なしに他の授業科目の結果を知ることが できない点は,現行制度の限界ではある。しかし,オ ムニバスの担当者間での活用は可能であり,そうした データをもとに意見交換することは有意義であろう。
オムニバスは担当者が変わるため,授業によっては学 生からの評判がよくないこともある。FDプロジェク トでは,オムニバスの授業改善とも関わり,課題点を 担当者間で共有するようアンケートの結果について読 んでもらうことを推進している。自由記述を打ち込ん で返却するようになったことから,オムニバスであっ ても各担当者の個別授業内容に関わる回答を知ること ができるため,制度的には以前よりも具体的な授業改
善に役立てやすくなっていると思われる。
4.教員の意識調査からみる現行授業ア ンケートの課題
教員の意識調査の「現行アンケートに対する意見・
感想」項目に書かれた回答を大きく分けると,次の7 点が課題としてあげられていた。
① アンケート項目に関する改善意見
アンケート項目の改善については,FDプロジェク トの中でも非常に多くの意見がある。項目については,
これが最もよいというフォーマットはないと思われ,
実施する側が聞きたいことを入れるのが最善の方法と 思われる。本調査では,「科目担当者でアンケートを 作成すべき」,「全学統一フォーマットに反対」,「私自 身が知りたいことと一致していない」といった意見が あった。用意された項目以外を望む場合は,裏面を利 用して科目担当者間や各教員で必要な項目を設定して もらうのが現状においてよりよい解決の方法だろう。
裏面に独自アンケートを印刷し,実施しているとの回 答もあった。授業アンケートの裏面は白紙になってお り,授業者が自由に設計できるようになっている。今 まで二種類あったアンケートのフォーマットについて は,簡易なものに統一しており,FDプロジェクトで は裏面を活用した独自アンケート作成方法も例示して いるので,今後より活用されるようになれば,必要な 情報が得やすくなると思われる。
「授業目標が達成されたかor授業目的を達成するに ふさわしい内容であったかという項目の設置」,「学生 が授業を受けて自分なりにそこで得た知識をどのよう に活かしているかなどの学生側の勉強態度や工夫の仕 方をききたい」,「授業の難易度・レベルに関する質問 項目の設定」などといった意見も大変貴重で,授業ア ンケートの問題だけでなく,大学全体の授業改善のた めに考えていくべき課題と思われる。たとえば,当該 授業で得た知識の活用については,他の授業でどのよ うに活用できるか考えることでカリキュラムの問題に もつながり,授業の難易度などはベンチマークの設定 ともかかわるからである5。とりわけ,知識の活用に ついてはカリキュラムデザインともつながるので,教 員自身がどのように学生を支援しているのか問われる ことでもある。
② 自由記述欄に関する意見
自由記述は多数の教員が注意して読んでおり,参考 になる意見が多くて重要と考えている。アンケート回 収後,多くの教員は事務に提出するまでの間に読んで 自分の授業を振り返っていることが回答から読みとれ る。しかし,共生システム理工学類では教室で厳封 の上,そのまま事務に渡すことをルール化しているた
<表3>集団(グループ)としての授業アン ケートの利活用度合い
ない ある 無回答 計
全体計 58
92.0%
2 3.2%
3 4.8%
63 100.0%
人間 発達
20 95.2%
1 4.8%
0 0.0%
21 100.0%
行政 政策
11 91.7%
0 0.0%
1 8.3%
12 100.0%
経済 経営
13 81.2%
1 6.3%
2 12.5%
16 100.0%
共生 理工
14 100.0%
0 0.0%
0 0.0%
14 100.0%
(上段は回答者数,下段はその割合)
<表4>福島大学におけるアンケート結果の 利用についての方針
①アンケートの本来の趣旨以外の目的で使われること を避けるため,個々の授業ごとの集計は授業担当者の みに返すこととし(データ入力と集計はすべて外注), FDプロジェクトをはじめ,いかなる組織でもそのデ ータを扱わない。
②しかし,大学として教育改善に取り組むためには何 らかのデータ分析は不可欠である。そこで,別表に示 した科目群で集計をし,その結果については全学の検 討に付す。その際,クラスサイズが一桁以内の授業は 集計から除外する。また,授業科目が特定できるケー スについては公表からはずす。
③自由記述内容については,個々の授業担当者が参考 にすべきものであり,公表はしない。
(福島大学FDプロジェクト編『平成13年度福島大学FDプロジェ クト活動報告書』2002年,77‑78ページより作成)
め,書かれた内容を読むことができない教員もいた。
必要であれば事務でコピーを取れる制度にもなってい る。教員によっては,スキャナーで保存し,次年度の 改善に役立てているとの回答もあった。
本調査では,「理工では教員が回収しないようにし ているが,これは世の中の常識」との意見も出された。
確かに,いわゆる匿名のアンケート調査においては,
回答者に率直な意見を書いてもらうため,実施者が回 収するのは良くないという考え方もある。教員評価に 使用するなら,厳格な実施方法も必要だろう。しかし,
福島大学では<表4>のように授業アンケートを教員 評価に使用しないことが「方針」として合意されてい る。授業アンケートを評価として使わないのであれば,
「教育改善のための」と題したアンケートである以上,
教員は学生が書いた真摯な内容をきちんと受けとめる ことも大切である。教員評価と授業改善のどちらに重 点を置くかにより,回収方法だけでなく,授業アンケー トの位置づけも変わってくる。これまでは数量的デー タしか結果の返却ができなかったが,自由記述欄の内 容を打ち込んで返すようになったため,この点は少し 改善されるものと思われる。
自由記述欄の学生による回答は多くの教員が重要と 考える一方で,「最近では自由記述欄の記載が減って いる」,「年々具体的な意見を書く学生が減ってきてい る」といった懸念もあった。自由記述欄があまり書か れていないため,回答されたアンケートを見ないとい う意見もあった。自由記述欄の記載が減っているのは,
学期末にすべての授業で同じアンケートを書かされる ため面倒と感じたり,マンネリ化したりしていること も考えられる。
自由記述欄を学生に書かせるためには,多少の工夫 が必要である。教員によっては,要望を書くように指 示していると活用例を回答したものがあった。「わざ わざ文字で表すのは何かを伝えたいからだと考えるた め」より注意して見るのだという。筆者は,学生が回 答する前に授業改善のために役立てたいという趣旨を 説明し,自由記述欄はとりわけ注意して読んでいるの で,ぜひ率直な意見を書くようアナウンスしている。
何を書けばいいかわからない学生もいるので,自分が 重点的に改善を試みた点を中心に,書いてほしい内容 を具体的に指示する。こうしたアナウンスをした時と しなかった時では,自由記述に回答した数が大きく異 なった。アナウンスをしないと自由記述部分を書く 学生は少数だが,回答時間を十分に取って丁寧に説明 すると大体は何かしら書いてくれる。分量がA4判2 ページから1ページに変更・簡素化されたので,以前 よりは書きやすくなっている。学生から有用な意見を 引き出すためには,多少の工夫も必要と思われる。な お,授業アンケートの用紙には,「この授業に関する 感想・要望・意見,教育環境の改善点等を書いてくだ
さい」と具体的に記述すべき内容を提示している。
③ 実施方法やフィードバックに関する意見
実施方法やフィードバックに関する意見として,「学 期末に実施するので改善した結果の授業が次年度に なってしまう」,「自由記述欄の結果も返却してほしい」
などがあげられていた。学期途中に実施する中間アン ケート,自由記述欄の返却なども行いつつあるので,
全学的に理解を求められるようにしていくことが必要 と思われる。「授業途中で受講を辞めてしまう学生の 声をどのように拾うか」,「設備に関する不備は別のア ンケートにすべき」といった意見についても,中間ア ンケートを実施することで,よりよく学生の声を集め ることができるようになると思われる6。
④ 組織的にデータを活用することについての意見 組織的にデータを活用することについての意見とし て,「評価者の出席率と評価との科学的関係の解明と いったデータ分析についての要望」,「教員評価データ を活用すべき」,「改革論議のために利用できるように すべき」,「結果の公表」,「中間アンケートとの整合性」,
「教員評価にリンクしないで何らかのチェックがあっ ていい」といった回答があった。福島大学の授業アン ケートの活用については<表4>の「方針」にあるよ うに,個人のデータは全学委員会でも扱えないことに なっているため,科目群・部局ごとの集計結果から分 析できることに限られる7。一方で,教員評価データ に活用すべきとの意見は多く,FDプロジェクトで慎 重に対応を検討しながら,全学的な共通理解をはかり,
よりよい活用方法を構築していくことが必要であろう と思われる。
⑤ 授業アンケートへの不満や実施に対する意見 アンケートに対する不満,実施反対意見については,
「出席が半分未満だった受講生の総合評価は無視して もよいと思われる」,「匿名にすることで無責任な回答 が含まれる可能性が高く,教員の授業に対するやる気 を低下させる結果につながらないだろうか」,「ほとん ど出席してもいない学生が最後の授業だけ出て,『評 価』をするのはおかしくないだろうか?」,「学生の無 責任さ」,「記述が丁寧でない」,「手を抜いて回答して いるものがいる」,「不真面目な学生に評価されるのは 理不尽」,「1と5ばかり書く学生への改善方法」,「ア ンケートが多すぎる」,「全数調査しなくてもよい」,「毎 年やる必要はない」,「本当に授業アンケートは必要な のか」といったものである。こうした不満から,「ア ンケートの結果はほとんど役に立たない」との回答も あった。いい加減に書いている学生への不満は,授業 アンケートの改善論議においてよく聞く。改善すべき 意見においても,ほとんどの学生が授業をよりよくす
るために考えて建設的な回答をしてくれてはいるが,
少数の心ない記述があると多くの教員はそこにより目 がいってしまい傷つくといった話をしばしば耳にす る。努力して授業をやっている教員からすれば,残念 な気持ちになることは当然である。そこで,FDプロ ジェクトでは授業アンケートの趣旨をよりよく理解し てもらうため,次の2つを進めている。
1つは,アンケートの趣旨をより説明する方法であ る。教員に対しては,今回のような教員の意識調査を 実施するほか,毎学期FDプロジェクトの委員を通じ て教員会議で授業アンケート実施への協力依頼と趣旨 説明を行っている。学生については,一部の授業でな ぜアンケートを実施しているのか説明している。全体 として,授業でどの程度学生に説明をしている教員が いるのか正確な調査はしていないが,アンケートを実 施する前に趣旨について話をしているという声はしば しば耳にする。たとえば,1年生向けの共通教育総合 科目「大学で学ぶ」の授業では,1時間確保してなぜ アンケートをするのか学生に考えさせる授業を行って いる。
また,FDプロジェクトで行っているFD合宿研修 においても,授業アンケートをテーマに教員・職員・
学生の三者でディスカッションをする取り組みを実施 している。このFD合宿研修において,学生たちは「授 業アンケートがこれ程までに有意義なエッセンスが詰 め込まれているものだとは,この福島大学で約一年半 大学生活を送っていても気付かなかった」,「私自身も 深く考えずにアンケートを書いていたので深く反省さ せられました」といったことを考えるようになってい る8。なかなか授業アンケートの趣旨を浸透させてい くことは難しいかもしれないが,こうした取り組みか ら少しずつ進めていくことがより理解を図る上でも必 要なことだろう。
もう1つは,活用方法が学生や教職員の目に映るよ うにすることである。学生にとっては自分の書いたも のがどのように使われているのか,気になるところで ある。授業アンケートの結果については,FDプロジェ クト報告書や大学のホームページで公開をしている。
しかし,なかなか学生の目にはとまっていない。一部 の大学で進められているが,シラバスに授業アンケー トの意見を踏まえた改善を明記する方法もあろう。ま た,教員同士においてもアンケート結果や改善方法が より共有できるような仕組み作りも必要である。こ れまで,授業公開&検討会において授業アンケート等 での学生の意見を取り入れている事例も紹介されてい る。こうした教員相互の授業改善に関する情報の共有 も,少しずつ進みつつある。
これをさらに進めるため,昨年度総合教育センター FD部門では,授業の取り組みや工夫を集めた授業実 践記録集の作成を行った。授業実践記録集では,こん
なことで困ったことはないですか,ショックだったこ とはないですか,といった授業等における「困りごと」,
さらにはさまざまな授業に関する知恵や工夫から改善 の試みをまとめた。つまり,より楽しい講義や授業づ くりの内容・方法の共有を目的とした取り組みである。
各教員の原稿には,学生の意見を反映してこれまで改 善を試みてきたことも書かれている9。こうした取り 組みと授業アンケートをよりよく結んでいけば,さら に活用方法が広がっていくであろう。
本調査では,「記名式のアンケートに変更する必要 がある」と実施方法についての改善意見も出されてい る。これは,授業アンケートの課題を検討する時に必 ず問題となる点である。記名式と無記名式については,
拙稿において検討しているようにそれぞれ一長一短が ある10。記名式にすれば,無責任な回答は多少減るか もしれない。しかし,大切なことは,建設的な意見に ついては謙虚に耳を傾け,心無い意見に対しては深く 考えず,授業アンケートの趣旨をよく学生に説明して,
責任ある回答を書かせることではないだろうか。学生 は同じアンケートを学期中に何度もやらされるため,
いい加減に書きたくなることも考えられる。全数調査 ではない方法を考えることもありえるだろう。福島大 学のFDプロジェクトでも,授業アンケートの目的に 即していずれの方法を選択すべきか慎重に検討をして いる。
⑥ 評価者育成に関する意見
学生に責任ある回答をさせるためには,評価をする ことの意味や意義について教育することが必要であ る。そうした評価者育成に関しては,「アンケート記 入に対して意味や責任を学生にもっと自覚させる」,
「学生に評価能力を育てる」,「正しく評価するという 批判的精神を教育する」といった回答があった。大学 は学生を教育する機関であることから,将来社会に出 て評価をする側になった時のことも考えて,評価に対 する考え方や方法を教えることは大切である。2009年 度実施のFD合宿研修に参加した学生は,「就職活動 で会社の面接試験を受けて一旦は評価される側の人間 になるが,その会社に入社して今度は自分が試験を受 けに来た学生を評価する立場になったときにある程度 の評価(分析)する力がなければ良い人間は入社して こない」11と感想を述べている。前述の通り,FD合 宿研修では,教員・職員・学生の三者で「授業アンケー トを考える」セッションを行った。この学生は,合宿 研修を通して授業評価を自分の問題として捉え,いず れは立場が変わって評価をする側になることを考える ようになっている。授業アンケートは,学生が社会に 出ていって必要な資質形成に寄与する教育活動と捉え て指導すべきものでもあるのだろう。
⑦ アンケートのあり方についての意見
アンケートのあり方については,「昨今,学生受け のよい授業体制の構築に執心するような傾向もある が, 口に苦い良薬 たる学問の重要性も他方で図る 必要がある」,「教員向け調査を頻繁にやるべき」と いった回答である。どの程度「昨今,学生受けのよい 授業体制の構築に執心」する傾向があるのかわからな いが,大学・学類・専攻・担当授業等の教育目標を達 成できるように指導することが,単に小手先の方法論 の改善をするより重要である。授業アンケートも,そ の点がより把握できるように改善すべきとの意見は,
その通りであると思われる。多様な意見を踏まえなが ら,大学の状況によって必要な情報が集められるよう にアンケートの改良を進めることは大切であろう。今 後も,こうした教員の意識調査をしていくことはFD プロジェクトの課題である。
おわりに
調査の結果,有効な授業アンケートの利活用を望む 声が多い一方で,さまざまな改善意見が出された。上 記で取り上げられなかった教員の意識調査における回 答の1つに,「教員が記入者に説明もしくは反論する 機会を保障すべき」というものがあった。これは,と ても重要な指摘であると思われた。最終回の授業でア ンケートを実施すると,教員の意見を表明できる場が ない。中間アンケートを実施するとともに,教員が説 明や反論をする機会をつくることは,必要なことと思 われる。そうした考えと自己評価活動を組み合わせ,
東北大学では授業実践記録を導入している12。東北大 学の授業実践記録は,「1.授業科目の目標(シラバ ス記載の学習到達目標等)」「2.授業実践の成果をあ げるにあたって教育内容・方法等で工夫した点」「3.
学生による授業評価結果概要と分析ならびにそれに対 する意見」「4.授業実践の成果(学生の学習態度や 成績評価結果に関するコメントなど)」「5.解決すべ き課題や今後の改善策など」の5つの項目からなって いる。教員自身が授業に関する取り組みの成果を表明 し,学生による授業アンケートの結果について意見を 提示する機会が保障されているといえる。
東北大学の授業実践記録のような取り組みは,委員 会でアンケート結果を分析できる体制ができている上 での導入である。委員会が授業アンケート結果を点検 する仕組みがないと,教員の自己評価しか見ることが できないため,実施の意義が不十分になる。全学的に
「教員が記入者に説明もしくは反論する機会を保障」
するためには,授業アンケートの結果を全学的に開か れたものにする必要がある。<表4>のような現行の 福島大学の「方針」のもとでは,委員会が授業アンケー ト結果を見ることができないため難しい。単に,学生 である記入者に「説明もしくは反論する機会」を確保
するだけなら,授業の最終回ではなく,その前週に授 業アンケートを実施すればよい。14回目の授業でアン ケートを実施し,15回目の最終回で教員が書かれた内 容について「説明もしくは反論」すればいいからであ る。授業アンケートは,毎回14回目の授業で実施可能 な時期に配布されており,制度的にも最終回の授業で 行わなければならないとはしていない。また,中間ア ンケートを活用することで,「説明もしくは反論する 機会」を確保することも可能である。
福島大学でも,学生の意見に対してこたえる場をよ り制度的に用意し,教員が考えを述べる仕組みについ て考えていく時期になっているのかもしれない。前述 のように,昨年度から総合教育研究センターのFD部 門で作成している授業実践記録集は,授業の改善方法 や工夫とともに,アンケートに対する意見を述べるこ とができるようにもなっている。各教員からどのよう なFDを実施したか報告させればよいといった回答も 出されており,今後こうした授業実践記録集のような 取り組みを進めることで,教員の意見を述べる場をさ らに保障していく方法もあろうと考える。こうした教 員の意識調査は定期的に行うべきとする回答もあり,
教員の意見を丁寧に汲み取る仕組みについて考えてい くことも授業改善を行う上で重要であろう。
注
1 文部科学省の調査報告「大学における教育内容等の改 革状況について」(2006年6月6日)。
http://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/18/06/
06060504/002.htm
2 文部科学省の下記のホームページでは,2004年度から 2008年度までの調査結果をまとめ,「学生による授業評 価の結果を授業改善に反映させる組織的な取り組み」に ついて各大学の事例を紹介している。
http://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/18/06/
06060504/002.htm (2006年6月6日付の調査報告)
http://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/19/04/
07041710.htm (2007年4月16日付の調査報告)
http://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/20/06/
08061617.htm (2008年6月3日付の調査報告)
http://www.mext.go.jp/b̲menu/houdou/21/03/
1259150.htm (2009年3月31日付の調査報告)
http://www.mext.go.jp/a̲menu/koutou/
daigaku/04052801/̲̲icsFiles/afi eldfi le/2010/05/26/
1294057̲1̲1.pdf (2010年5月26日付の調査報告)
3 拙稿「『授業アンケート』の活用における現状と課題」
『福島大学総合教育研究センター紀要』第9号,2010年,
25-32ページ。
4 本調査を行ったFDプロジェクトとは,「福島大学の 教育水準の向上を図り,かつ本学の目的及び社会的使命 を達成するため,本学の教育内容及び教授方法の改善を
推進する」ことを目的とした全学委員会である。2010年 に規程を改正して,現在この委員会は,総合教育研究セ ンターFD部門専任教員を責任者とし,各学類の教員2 名(計8名),教務課長を構成員としている。教育担当 副学長もオブザーバーとして参加となっている。FDプ ロジェクトは,教育担当副学長が委員長をつとめる教育 企画委員会の下部委員会として組織されている。
5 ベンチマークの導入については,国際基督教大学,新 潟大学,お茶の水女子大学などですでに導入が進められ ている。たとえば,お茶の水女子大学では2009年度か ら文部科学省による「大学教育・学生支援推進プログラ ム」の採択を受け,「多次元的な学士力養成を担う総合 的学修支援」と題した取り組みを行っている。この取り 組みでは,カラーコードベンチマーク(CCBM)システ ムの構築に向けた研究を進めている。カラーコードベン チマークとは,複数プログラム選択履修を効果的にガイ ドするため,全科目について授業の到達目標や内容の体 系性について,科目の授業水準を複数のカラーコードで あらわしたものである。カリキュラムにおける科目の構 造的位置付けや学修順序性について,直感的にわかりや すくすることをねらっている。「教育の質保証−4つの 大学の取組から」(「多次元的な学士力養成を担う総合的 学修支援公開シンポジウム」(2010年2月13日,於:お 茶の水女子大学)における配布資料,半田智久「カラー コードベンチマークと機能するGPAがもたらす質保証 の進化とはなにか」より引用。
6 2009年度にFDプロジェクトが作成した中間アンケー ト「講義室・授業の教育環境の質問」は授業環境に重点 を置いて,次のような項目の構成になっている。1.私 語等がなく学習に集中できる雰囲気が保たれている。2.
授業の場の大きさや設備等は適切である。3.講義室の 温度設定は適切である。4.受講者数は適当である。5.
板書の仕方(またはパワーポイント等)は適切である。
6.授業での話し方は適切である。7.自由記述欄。な お,1〜6の項目は,「①そう思う,②ある程度そう思う,
③どちらとも言えない,④あまりそう思わない,⑤そう 思わない」の5つから選択する形式となっている。
7 この点の限界については,前掲の拙稿「『授業アンケー ト』の活用における現状と課題」において論じている。
8 福島大学FDプロジェクト『福島大学FDプロジェク ト活動報告書〜授業改善の追求〜』2010年,103-104ペー ジ。
9 昨年度作成した授業実践記録集「こまったぁ〜よくあ る授業の悩みごと・それに応える知恵と工夫」(仮称)は,
原稿募集の開始が年末だったこともあり,時間的に厳し かったため,試作品といった位置づけになっている。原 稿数は多くないが,多彩な内容である。掲載原稿の題目 は,次の通りである。「多人数授業に対する取り組みの 一事例―総合科目『ことばのかたち』の場合―」,「『キャ リア形成論』という科目の扱い方―『きっかけ』をつく
る―」,「多人数授業で学生とコミュニケーションがとれ ない―シャトルペーパーの利用―」,「私語の世界」,「実 技授業における携帯電話動画撮影の利用について」,「教 養演習における学生の生活目標の明確化の方法」,「授業 での失敗と教訓」,「線形代数・線形代数学を担当して」
「ポートフォリオを導入した授業の実践例」
10 坂本尚夫,荒井克弘,関内隆,縄田朋樹,葛生政則,
北原良夫,板橋孝幸『「学生による授業評価」実施状況 の調査と新たな「授業評価改善システム」構築に向け て:報告と提言』,東北大学高等教育開発推進センター,
2006年3月。この調査における対象大学では,北海道大 学,京都大学(工学部),広島大学,鹿児島大学で記名 式を導入していた。北海道大学では,2004年度後期に一 部についてのみ実施している。鹿児島大学では,記名は 任意となっている。京都大学では,記名式のメリットに ついて「回答に責任を持たせることはもちろんだが,な んといっても大きいのは,(a)授業アンケートの回答内 容と成績がどう相関しているか,(b)ある学生の回答 内容が,授業科目間でどのように異なっているか,(c)
ある学生の回答内容が1回生から4回生までの間にどう 変化するか,などを見ることができる点」をあげている
(京都大学高等教育研究開発推進センター編『平成16年 度採択特色GP「相互研修型FDの組織化による教育改 善」活動報告 2004年度工学部授業アンケート(速報版)』
2005年3月,8ページ)。無記名式にした方が受講学生 の率直な回答が得られるといった理由から,記名式を採 用している大学は少ない。しかし,無記名式の場合,「無 責任な」回答が寄せられるといった意見もしばしば耳に するところであり,今後検討の必要があると思われる。
11 前掲,『福島大学FDプロジェクト活動報告書〜授業 改善の追求〜』2010年,103ページ。
12 関内隆,宇野忍,縄田朋樹,葛生政則,北原良夫,板 橋孝幸「東北大学全学教育における授業実践・評価・改 善サイクルの新たな取組―『授業実践記録』作成と『ミ ニットペーパー』の活用―」『東北大学高等教育開発推 進センター紀要』第2号,2007年,197-210ページ。